チャレンジャーチャレンジャー

田口悟のヒストリーから探る
チャレンジャーの実態
[前編]

デビューから瞬く間に人気ブランドへと成長し、勢いそのままに昨年10周年を迎えた〈チャレンジャー〉。シーンで確固たる個性と存在感を放ち、既に FIGURE でも多くのファンを獲得しています。その魅力を再確認し、もっと深く知るため、元プロスケーターでありデザイナーの田口 悟さんのアトリエを訪ねました。貴重なお話を2週にわたってお届けします。Photo_Shunsuke Shiga
Interview & Text_Naoyuki Ikura

プロスケーターとして名を馳せると同時に、ファッションシーンでも長く活動してきた田口 悟により2009年に設立。クルマ、バイク、スケートボード、楽器など、いくつになってもガキのように男を夢中にさせる遊び道具が転がり、様々なカルチャーやヒーローが生まれてきた「アメリカン・ガレージ」をコンセプトに掲げ、その世界観をデザイナー自身の感性&実体験を通してプロダクトへと投影している。
―田口さんと言えば、やはりスケートボード。始めたのは何歳のときですか?

1985年、小学校5年生だったと思います。いわゆる第3次スケートボードブームの頃で、学校の友だちが皆んなやっているくらい大流行していました。僕は、あらかじめ組み上げられて販売されているオモチャのようなスケボーを、ホームセンターで親に買ってもらったのが最初です。

小学生なので、ファミコンもしたし、ケイドロとか鬼ごっこもしたし、そうした子どもの遊びのひとつとしてスケボーもあった感じ。純粋に好きで、ただただ楽しくてやっていただけなので、いつかはプロになろうとか、将来はスケボーを仕事にしようなんて思ってもいなかったですね。

とはいえ、かなり本気でやっていました。中学時代に出場した地元のスケートショップの大会で知り合った石沢 彰さんというレジェンドスケーターに色々と教わったり、大会に連れて行っていただいたり。高校3年のときは、自分がサポートを受けていた『インディペンデント』という地元のスケートショップの協力を得て、文化祭で大会を開催しました。そこで優勝したことで〈リアル〉にスポンサードしていただけるようになり、卒業後は同級生が就職したスケートブランドで僕のシグネチャーデッキを作ってもらいました。そして ‘95年、19~20歳のときに AJSA=日本スケートボード協会が主催する大会で年間ランキング1位になり、公認プロになれたんです。

それがキッカケで〈ホームレス〉というファッションブランドからもスポンサードを受けるようになりました。2000年には〈メトロピア〉というスケートチームを結成してライダーをやりながら、そのアパレルのグラフィックも手掛け、次第に商品企画や生産にも携わらせていただき、洋服作りを学びましたね。

〈メトロピア〉在籍当時に村上隆と奈良美智がグラフィックを製作したデッキ、当時は1万円台で販売されたが、現在の市場価格は………。
美術館にも展示されるのなど、スケートボードがアートであることを体現する貴重な一枚。

その後 ‘07年からはデニムの生産会社で働きました。ブランドから依頼を受け、岡山などの工場とやり取りするといった業務にあたるなかで、何か表現するほうが好きだと気が付いたんです。そこからプロスケーターの岡田 晋君のブランドの立ち上げや企画を手伝い、’09年に〈チャレンジャー〉を設立しました。こうして振り返ってみても、周りの環境には本当に恵まれていたし、スケートボードが核となり、そこでのつながりからすべてが広がってきましたね。

―強い影響を受けた人物などはいますか?

特定の人物はいませんが、小学校6年~中学時代はアメリカの『スラッシャー・マガジン』などのスケート雑誌、『ボーンズ・ブリゲイド・ビデオショー』といったVHSを食い入るように観て、登場するスケーターの服装を真似していました。ファッションだけでなく、トリックやそこに映るデッキにも注目していました。特にボーンズ・ブリゲイドのアートワークを手掛けていたV.C.ジョンソンが大好きで、学校の授業中は彼の作品を教科書やノートの隅に描き写してましたね。

あと当時あった『ラジカルスケートブック』という日本の雑誌に掲載されていたデッキを隈なくチェックするのが好きで、ただ眺めているだけでもワクワクしていました。デッキのグラフィックから受けた影響は非常に大きくて、そこから絵に興味を持ち、高校時代にはアトリエにも通って絵画を学び、さらに美術の専門学校に進んで本格的に学びました。

―〈チャレンジャー〉はスタートから間もないうちに話題を集め、ストリートに存在感を示してきました。

「ブランドがデビューしてすぐ〈ネイバーフッド〉や〈フラグメント デザイン〉、ブーツの〈ヴァイバーグ〉といった素晴らしい方々とコラボさせてもらったのが大きかったと思います。初めてリリースしたデッキは、先ほども挙げたV.C.ジョンソンにグラフィックを描いてもらいました。早い段階から〈チャレンジャー〉を知っていただく良い機会にもなり、皆さんには本当に感謝しています。すべて以前からの親交が実を結んだものですが、コネクションがあったわけでもないアメリカ本国の〈HUF〉からそうした活動に興味を持ってもらい、何か一緒にやろうとオファーもありました。’90年代に彼と一緒に撮った写真は今でも大切にしているくらい昔からキース・ハフナゲルは好きでしたので、実現できて嬉しかったですね」

―冒頭のとおり「田口 悟=スケートボード」と語られることが多いなか、〈チャレンジャー〉のプロダクトはスケートボード然としたデザインではありません。どちらかというとモーターサイクルやチョッパー、ホットロッドといったカルチャーからのインスピレーションを色濃く感じます。

「バイクに深くのめり込んだのは30代になってからで、〈チャレンジャー〉を立ち上げた頃、仲間がみんな乗っていた影響が大きいですね。バイクは僕のライフスタイルを形成する大きな要素であり、さほど意識はしていないものの、今の自分の気分としてプロダクトにも強く表れているのかしれません。現在の愛車は1955年製のトライアンフ 6T ブラックバードです。

またスケーターだからスケーターらしい格好を、とは考えていません。僕自身、学生時代はラル フローレンのボダンダウンシャツを着て、ダボダボじゃなくスリムフィットのデニムを穿いてスケートをしていました。同様に、バイカーだからといって革ジャン&エンジニアブーツとも思わない。バイク乗りだってスタジャンとヴァンズでいい、というスタンス。ですから、スケボーやバイクに明るくない方が〈チャレンジャー〉の洋服に手を伸ばしていただけるのは大歓迎。

というようにカルチャーが根底にはありますが、そこばかりを意識していないし、縛られたくもないんです。軸さえブレなければ枠組みから逸脱するくらいで良いと思っています。例えば、昨年末に原宿のフラッグシップショップを和な雰囲気にリニューアルしたのも、そのひとつかもしれません。ヴィンテージのハーレーのタンクを象った古伊万里の壺を有田焼の窯元に製作していただきました。皇室に献上したり、ティファニーとコラボするような格式の高い窯元なので、こんな突拍子もないデザインは本来なら断られてしまうのですが、縁あって引き受けていただけました。ステレオタイプなバイクカルチャーの発想では、まず浮かばない表現だと思います。確固たるカルチャーは匂わす程度で、こういった新しいことにもチャレンジして行きたいですね」

磁器発祥の地、佐賀県有田にて1753年から続く窯元〈源右衛門窯〉にて製作。ブランド10周年を記念したアート作品で、販売予定はなかったが購入希望者がいたため完全受注生産で販売することに。FIGURE での取り扱いはないが、価格はタンク¥1,000,000+TAX、タンクキャップ¥30,000+TAX
磁器発祥の地、佐賀県有田にて1753年から続く窯元〈源右衛門窯〉にて製作。ブランド10周年を記念したアート作品で、販売予定はなかったが購入希望者がいたため完全受注生産で販売することに。FIGURE での取り扱いはないが、価格はタンク¥1,000,000+TAX、タンクキャップ¥30,000+TAX
―アートとしてのデザインというより、日常にあるデザインですね。

リアルクローズとしての実用性は大事にしています。スケボーでの動きやすさ、バイクの跨りやすさ、ライディングポジションでもモノが落ちないようなポケットの形状など、いちスケーター、いちバイク乗りである自分が日常のなかで気付いたフィードバックを落とし込んでいます。バイクに乗っていて寒いからサーマルを作ろうとか、その上に半袖シャツを重ね着するからサーマルの袖にプリントを入れようとか、実体験に基づいてアイテムを考えますね。あとは、デニムの生産会社で働いていた経歴を生かして、生地は本場の岡山、縫製は愛媛、加工は児島といった具合に国産にこだわってクオリティを重視しています。

グラフィックは多くの人にとっての音楽と一緒で、自分がスケボーのグラフィックを見て高揚するように、胸が高鳴ったり、勇気をもらったり、自信がついたり、笑えたり、心を動かす存在になれば嬉しい。今日はデートだから〈チャレンジャー〉のこれを着て行こう、とか。さらに昨今、スケボーのデッキ自体がコンテンポラリーアート的な価値観で捉えられています。僕もそういった気持ちで描いているので、ファッションとして、アートとして楽しんでもらえたら最高です。


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