Definition of
proper clothing
nonnative藤井隆行さんが考える、
現代のブランドコミュニケーション
FIGUREでも人気のnonnativeの服作りは、昔から変わらない、シンプルでテクニカルなデザインが魅力です。しかしそこに込められた想いは、時代とともに変わっているようです。デザイナーの藤井隆行さんが考えるブランドの存在意義、あるべきコミュニーケーションについて伺いました。Photpgraph:Kanta Matsubayashi
Interview&Text:Masayuki Ozawa[MANUSKRIPT]
大人が堂々と買って
どんな生活にも対応できる服でいたい
藤井隆行さん(以下藤井) : 俺自身はあまり変わっていないけど、ブランドに対する捉え方は変わったと思います。「あそこがこれをやっているから、うちはこう」みたいな、周りを見て自分たちの立ち位置を客観的に考えなくなったことで、ドメスティックブランドの大きな枠から、いい意味でどんどん横道に逸れていったのかな。
藤井 : バレンシアガとかのトレンドからかな、ここ最近だと世の中のシルエットが急に大きくなったじゃない? 俺らみたいなドメスティックブランドって海外みたいに服作りのリードタイムが長くないから、じつは(世の中のトレンドに)合わせやすいんですよ。正直に言うとパリコレを見て「これいいじゃん」と似たようなサンプルを作っても、展示会や納品に間に合わせることだってできる。でも、そういうことをやっている限りは、結局パリのランウェイがファッションの一番でしかない。そういうサイクルやインプットのしがらみから抜け出したことが、変わったってことかな。
藤井 : 10年前とまったく違うコレクションをやっているブランドは、そのデザイナー自身のファッションもすごく変わっている。もちろんそれが悪いことではないけれど、俺にはちょっとできないなと。その分、自分に対しての探究心は持ち続けていたい。若い時は原宿や青山にあるセレクトショップだったリサーチが、最近は何を買うわけではないけど銀座になりました。仮に儲かっていなくても、服に限らずスタイルがブレていないブランドはものをちゃんと作っている。実際には会社の経営を気にしないといけない中でも、ここ3年くらいはnonnativeを買ってくれるお客さんのことを第一に考えるようになったかな。
藤井 : こうやってメディアに出させていただくのも、若い頃は「この雑誌に出たい」とかあったけど、今は自分がどうこうより、うちのお客さんが読んでいる雑誌にどうやって自分がハマっていけるかな、と考えるようになった。俺もブランドも歳をとって、お客さんも成長していくと、大事なことってファッション以外にあるじゃないですか。昔みたいに飯代を節約して服を買うってのは、もうちょっとおかしい。走っていたり、健康に気を遣ったり、アクティブな趣味があったり、子供が主体の生活だったりする人が、30〜40代には多いでしょ。家族を持つ人がコソコソ買うような服でありたくない。堂々と買って着てもらって、どんな生活にも対応できるブランドでありたいとは思います。
藤井 : デザインよりはイメージの問題もあるかも。nonnativeの服は、東京でもfigureさんがある静岡でも同じように売っている。自分が若い頃は、身近に例えばクラブシーンみたいな、東京らしい遊び場があったけど、今そこをカバーする服は俺の役割ではなくなっているから。そうなると東京でもその静岡でもブランドのスタンスは変わらない。週末にアウトレットいって、アクティビティを楽しんで。ローカルな生活に奥さんや家族からも”ちゃんと”している、って思われたいかな。
服の快適性について考える
ベストな場所が東京
藤井 : これまでずっとルールを持った「トラッド」が”ちゃんと”した服だった。しかし今はどこでも洗えて、誰でも簡単に手入れができて、しかもシワになりにくく、着続けて色落ちしてもかっこよく見えるとか。「大事に扱わなくてもいい感じのお父さんの服」みたいな。あとは暑くなったり、寒くなったり、雨が降ったり、風が吹いたりする気候の変動に対応していること。アウトドアウェアではなくて、都会の生活にもサマになる服。車で例えるなら、SUVみたいな服。
藤井 : 俺みたいに、とかじゃなくて「きっとあなたは似合うよ」と思って作っています。大事なのは「それを着てどこに行くの?」ということ。だから服にカルチャーがある必要はなくて、お客さんの持っているカルチャーを手助けというか、邪魔をしない服でありたい。キャンプでもランニングでも、人の前に立つ時に、悪くない印象を与えられたらいい。服って、車もそうだけど、その人のイメージを形成する大切な存在なので。
藤井 : 素材なら綿ポリ(コットンとポリエステル)の生地とか、質感がマットなGORE-TEXとか、メルトンのウールとか。それと風を通さないポーラテック ウインド プロのフリースとか。
藤井 : 電車の中はすごく暑いし、街はなんだかんだで寒い。脱ぎ着するシーンがすごく多い東京は、一番服をテストするには最適な街だと思う。東京のサラリーマンって、世界でみてもすごくタフな環境で通勤しているはずだから、快適さについてすごく考えることができる。
藤井 : これはコロナ前からやりたかったことで、12月に入るまで、誰もダウンなんて着ないでしょ?でもお店には前から入荷していて、冬服はセールで買う認識が出来てしまっているのがそもそもの問題。これは海外のコレクションスケジュールを基準にしたことの弊害で、前に言った通り、nonnativeがランウェイに従わないスタンスだからできるメリットじゃないかな。まだ変えて2年目だから手応えはわからないけど、ファッションがもっと健全であって欲しい。セールを待って買って、すぐに売ってお金に変えてのサイクルで服の価値を考えるのではなくて、ずっと所有してもらえる価値を作りたい。サステナブルや消費について考える時代だけど、エコな素材で作ることだけがかっこいいわけじゃないから。
藤井隆行
TAKAYUKI FUJII
1976年生まれ。2001年にnonnativeのデザイナーに就任。都市生活のみならず様々な場所やシチュエーションに適応する東京発のスタンダードを提案。