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「少しだけ理解できた気がする
<BlackEyePatch>の正体」

ランウェイショーで過激な演出を試みたり、イームズのシェルチェアを燃やしてみたり。攻撃的かつ独特な表現で国内外から高い注目を集める〈BlackEyePatch〉。その活動はもはや、単なるファッションブランドの領域を超えているけれど…そもそも一体彼らは何者なのでしょう? 雑味なオフィスに積み上げられた混沌としたディテール写真からも、ブランドのミックスセンスを感じることができます。かつては謎のステッカー集団と言われ、存在自体がカルチャーとなりつつある新進気鋭のドメスティックブランド。その正体に迫りました。Photographer:Shunsuke Shiga
Interview & Text:Jun Namekata

それはファッションブランドなのか、アート集団なのか

―活動のアプローチも、結果の残し方も、他のブランドとはちょっと違う。かつては“謎のステッカー集団”と言われたりもしていました。まずは率直に聞かせてください。〈BlackEyePatch〉とはなんですか?

〈BlackEyePatch〉は活動の中のひとつのセクションです。僕たちはそもそもANCHOR INC.というクリエイティブチームとして活動をしていて、〈BlackEyePatch〉はその中のプロジェクトのひとつ。いわゆるストリートブランドという位置付けで僕らはやっていいます

―ANCHOR INC.ではどんな活動を?

グラフィックデザインやアートディレクション、ブランディングなど、デザインに関すること全般です。僕はもともとグラフィックデザイナーで、6年ほどフリーランスで活動していました。

―ブランドを立ち上げるきっかけはなんだったのでしょうか?

ディレクションの仕事をしたいと思っていたのですが、何の実績も無い自分にはグラフィックデザインの仕事が多く、もう少しこう出来たら良かったなと思う事が何回かあり、悔しい思いをしました。それで自分で一からディレクションが出来るモノを作ろうと思ったのが最初のきっかけです。

―ブランドを立ち上げる上で、明確なコンセプトはあったのでしょうか?

そこまで明確なコンセプトはなかった気がします。その当時は今よりももっとファッションというものを理解していなかったし、日本のストリートブランドがどういったものなのかもわかっていなかった。ただ、自分なりに勉強をしていく中で、すでにあるものをやっても意味がないなと感じたんです。だからまずは消去法でやらないことを決めて、その中で自分たちが得意とするものとのマッチングを考えていく。そういう作業から始めました。

―チューニングをしながら。

そうですね。

―純粋な自己表現というより、ある程度マーケティングもした上でのスタートだったんですね。

でも最終的には感覚です。せっかく始めるなら、少しでも知ってもらいたいとか、その程度で少し下調べをするくらいです。結局のところ、自分がそれをやりたいかやりたくないかで判断していると思います。

―スタート時の手応えはどうだったのでしょうか?

スタート時は、手応えとかもあまり考えていませんでした。当時は、僕らのようなインディーズのストリートブランドは、まずはローカルのスケートショップやストリートブランドを多く扱うお店で取り扱われる事がセオリーだと思うのですが、そこには既にカッコイイと思うブランドやデザインがたくさんありましたので、わざわざ自分達が同じ場所で始める事にあまり意味を感じられませんでした。なので最初からメジャーなファッションストアから展開を始めたいと思っていました。マイナーなものがメジャーなファッションストアにあるということが面白いと当時考えていましたので、どうしたらそれが実現できるかという事は考えていたと思います。

―ちなみに〈BlackEyePatch〉というブランド名の由来は?

今はBlackEyePatchのプリントをお願いしている友達と話しながら、ほとんど即興で『BlackEyePatchでいんじゃない?』みたいな感じで決めました。とにかく早く何かはじめたいという気持ちがあったので、名前に関してはそこまで深く考えてなかったです。

―ブランドの性格にはヒップホップの要素も感じますが、そういった何かしらのカルチャーから引用したということでもなく?

もしかしたらあったのかもしれないですけど、今となってはわからないです。逆に言えば、そういうものしか出せなかっただけかもしれないですし。なんにせよ、特にそこに何か深い意味を持たせようとは思っていませんでした。

―ブランド名もしかりですが、〈BlackEyePatch〉のクリエイションは決してスタイリッシュやスマートといった形容はできないものだと思うんです。綺麗な丸ではなく、どこかいびつというか。あえての“いなたさ”と言ってもいいと思います。そのムードは意図的に演出しているんでしょうか?

強く意識してはいませんが、多少はあるかもしれません。僕が『これいいじゃん』って思うものが、そういう性質を持ったものが多いのかもしれません。

―その感覚はどのようにして形成されたのか伺いたいのですが、ファッションやカルチャーの原体験を教えていただけますか?

ヒップホップにはやっぱり一番影響を受けたと思います。でも音楽というよりはファッションが先だった。カールカナイとかフーブーとか。そういうものを先輩が着ているのを見ていて影響されたのを覚えています。

―例えば特定のクリエイターやアーティストに影響を受けたということは?

結構いろんなものをみていたとは思うんですけど、そんな深く掘るタイプじゃなかったんですよ。だから『このアーティストが好き』というのはそこまでなくて…。割と浅くみていたんだと思います。

ただ、デザインは昔からすごく好きでした。視界に入るもののデザインをとにかく観察して、これは格好いい、悪いというジャッジを感覚的にしていたように思います。だから文房具ひとつとってみても、“使えればなんでもいい”みたいな感覚は早い段階からなかったと思います。格好いいものしか使いたくなかった。自分の中で腑に落ちてるもので無ければ、手元に無くていいと思っていたように思います。

―アートとしてのデザインというより、日常にあるデザインですね。

そうですね。実はそんなにアートには興味はないんです。興味が無いと言うと語弊があるかもしれませんが、アートに興味があると言うよりは、格好良かったり、良いデザインだなと感じるもの全てに興味があります。

―話をブランドに戻しますが、そういった自身を形成するものを踏まえた上で、〈BlackEyePatch〉で表現したいものというのはどういうものですか?

それを言葉にするのは難しいかもしれません…。ただ、ブランドを知って、見てくれる人たちが感じるブランド像と、僕らが表現したいことってほとんどイコールだと思います。ヒップホップがベースにあったり、いわゆるストリートって言われるような雰囲気があったり。皆さんが受け取る印象そのものが、僕らが表現したいことだと思って頂ければ、それで良いのかなと思います。

―ベンチマークにしているブランドなどは?

部分的にはたくさんあります。例えばカーハートみたいなブランドってかっこいいなって思いますし、ステューシーもそう思いますし、他にもたくさんあります。ただ、流れに応じて自分たちのポジションは変わるし、そうするとベンチマークも変わる。なので、これっていう固定のものは特にないです。

―ブランドからは不良性も強く感じますが、その辺は意識はしていますか?

それが、実はあんまりないんですよね。

―コレクションでも過激な演出が多い印象です。どこか破壊的でもあるような。

特に意識はしていないんですよね。ただ、面白いと思ってもらえるような演出(?)は考えます。

―ブランドを設計・形成していく上で、一番頭を使うのはどの部分でしょうか?

難しいですね。なんとなくチームの感覚としても、これは面白いとかこれは違うのかなという判断があります。そこにはなんで面白いと思うのかとか、共有している空気がありますが、言葉にするのが難しいです。最終のアウトプットが洋服なので、洋服の事はもちろん考えますが、一番考えているのは洋服の云々ではなく、BlackEyePatchが特別な存在になってもらえるかという事でしょうか。

―「取扱注意」は、今やブランドのアイコンです。こういった日本的なモチーフを多用するというのは、意識してやっているんですか? “レペゼントウキョウ”的な。

その意識は多分あると思います。というか、意識しなくても勝手にそうなってしまう。普段目に見てるものを使う事は好きです。

―ブランドを育てる上で、一番苦労した点は?

先程も少し触れましたが、取り扱っていただく店舗なども含めたブランドのイメージですかね。デザインで何か真新しいものを作っている訳では無いので、見て頂ける場所や、知って頂ける場所などには慎重になっていた記憶です。例えばこの「取扱注意」のステッカーが、その辺に置いてあっても日常の光景ですが、ラグシュアリーなお店にお置いてあったら違和感があって面白く感じるかなと。そういう違和感が自分たちは好きです。見せる場所と見せ方を変えるだけで、物の見え方が変わる。そういう事が僕たちのやりたいブランドという事だったのかもしれません。

―ブランドのターニングポイントは?

アマゾンファッションウィークでのショーだと思います。あとは、そこまでの流れになった小浪君との写真集”GIMATAI”の企画や、オープニングセレモニーで初めて行ったポップアップショップなどです。

―ではこれから先の展望はいかがですか?

単純に、いいブランドになっていきたいですね。そのためにはデザインもアップデートしていかなければいけないし、素材や縫製といったクオリティも上げていかなければいけない。適正な価格であることも大事だと思っています。いろんな意味で大切にしてもらえる存在になれればって思います。

―大胆さもあり、緻密さもあり。複雑ですね。

僕の中では結構シンプルに考えています。友達に「こういう新しいものを見つけたんだけど、カッコいいよね?」みたいなテンションです。

一問一答

Q

洋服を作るとき、“デザイン”している感覚と“編集”している感覚。どちらが強い?

編集かな。

Q

作る、壊す。どっちがすき?

作る方。壊すのはそんなに好きじゃないです。

Q

新しいものと古いもの、どっちが好き?

新しいものが好きです。古いものが好きになるきっかけもそれを新しい視点で気づいた時に好きになります。

Q

ファッションを作っている?それともスタイルを作っている?

スタイルになるのかな・・・

Q

リアルとファンタジー、どちらが好き?

ロジックがわかるファンタジーが好きです。なので、リアルなのかな?

<BlackEyePatch>

クリエイティブディレクター

グラフィックデザイナー/アートディレクターとしての活動を経て、2013年に〈BlackEyePatch〉をスタート。ブランドのクリエイティブディレクターを務める傍ら、クリエイティブディレクション、アートディレクション、製作を展開するクリエイティブチーム〈アンカー〉の代表も務める。


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