

コンバース アディクト ディレクター 高瀬英次郎さんに聞く、
ブランド誕生秘話とその歴史。
【コンバース アディクト 歴史】と調べれば、数多くのブログ記事がネットには溢れています。詳細は細かく解説されているし、ヴィンテージと比較して微差を解説するマニアックな記事もある。しかし、その本当の軌跡をブランドのディレクターに直接取材した記事は、(ブランドの公式HPを除いては)多くありません。コンバース アディクトはどんなきっかけで始まり、どう進化し、今に至るのか。『東京スニーカー史』著者の小澤匡行氏が、コンバースジャパン 企画部 部長である高瀬英次郎氏にインタビュー。貴重なお話を伺いました。Photo_Kanta Matsubayashi
Interview_Masayuki Ozawa
Composition & Text_Jun Namekata

コンバース アディクトの始まり
小澤:こうやって改めて高瀬さんにお話を伺うのは、コンバース アディクトに関しては初めてですね。今日はよろしくお願いします。
高瀬:よろしくお願いします。もしかしたら小澤さんの方が詳しいかもしれませんよ?
小澤:それは絶対にないです(笑)。
まずは改めてその歴史をお伺いしたいのですが、そもそもコンバース アディクトはどんなきっかけでスタートしたのでしょうか?
高瀬:実は、70年代のヴィンテージのオールスターのスペックを復刻させたモデルは、2003年位からちょこちょこやっていたんです。
小澤:日本製のオールスターレトロ・ハイですね。
高瀬:そうです。社内でバック・トゥ・ザ・ルーツみたいな動きがあって作ったものだと記憶しています。
小澤:それはまだコンバース アディクトとしてではなくですよね?

高瀬:そうです。ヒールラベルは一つ星でした。スニーカーショップ向けにちょっとマニアックに作ったものという感じで、その時はそこまで爆発的に話題になったりはしなかったと思います。
小澤:その少し後にユナイテッドアローズから別注アイテムが出たと思うのですが、それは、その限定アイテムがバイヤーの目に留まったのがきっかけだったんでしょうか。
高瀬:そうです。それから何シーズンか継続的に色違いでリリースしていましたね。
小澤:僕もユナイテッドアローズ別注の70年代復刻デザインのオールスターがすごく欲しくて、苦労して手に入れたのを覚えています。確か2006年くらいだったかと思います。そういえば2004年くらいにN.ハリウッドともコラボレーションしていませんでしたか?
高瀬:しました。オールスターレトロをベースにライニングをレザーにしたり、配色を反転したり。今となっては珍しくなくなりましたが、当時は斬新でしたね。すごく面白いと思って作っていたのを覚えています。

小澤:そこからどういう流れでコンバース アディクトは始まったのでしょうか?
高瀬:人気が拡大する中、当時はどの量販店に行ってもオールスターが置いてあるという状態でした。人気があるということは嬉しいことでしたが、反面、価値がコモディティ化することに懸念も感じていた。そこで、オールスターの価値を高めるべく、ファッションとして注目されるためのハイエンドラインを作ろうという流れになったんです。とまあ、それは表向きの大きな理由の一つで、実はもう一つ理由があって…。
小澤:それはなんですか?
高瀬:純粋に自分たちが履きたいオールスターを作りたかったということです。ヴィンテージのオールスターは大好きでしたが、年々その球数も減ってきていましたし、年齢を重ねたせいもあってヴィンテージスニーカーを履いていると腰が痛くなるようになった(笑)。だったら、見た目はヴィンテージでありながら今の機能が搭載されている履き心地の良いスニーカーを作ればいいじゃないか、ということも後押しになって開発が始まったんです。
小澤:確かにそれはありますよね。僕もヴィンテージのスニーカーに機能的なインソールを入れて履いていた時期、ありました。
高瀬:今も掲げている“進化するヴィンテージ”というコンセプトは、そうやって生まれたんです。
オールスターは60年代のモデルがモチーフ

小澤:高瀬さんが理想とするコンバース オールスターは70年代のものなんですか?
高瀬:実はコンバース アディクトのモチーフって60年代なんです。当時、手元にあったヴィンテージのオールスターを色々見比べてみたのですが、60年代のそれのほうがシルエットが綺麗だったんです。また、三つ星のヒールラベルやピンクのデザインのインソール、ハトメの質感などはまさに60年代のモデルの特徴ですね。

高瀬:シルエットは個体差があるので何とも言えないところもあるのですが、70年代や80年代のオールスターはつま先が地面にベタっとくっつくフォルムなのに対して、60年代のオールスターはソールが適度に反っていてつま先が浮いているんです。その方が僕はきれいに感じたし、反っていないと歩いていて時々つまづくんですよね。
小澤:機能的にも理にかなっていたってことですね。

高瀬:なぜ80年代でペタっとなったかは謎です。
小澤:なぜアウトソールをヴィブラムにしようと思ったんでしょうか? それ以外にもいろんなソールをご存知だったと思うのですが。
高瀬:プロダクトに付加価値をつけたかったというのが一番です。今は自社開発のブランド化した滑りにくいソールも採用しています。

小澤:2005年くらいからカップインソールも採用していましたよね。
高瀬:クラシックなスニーカーに機能をのせるという作業、つまりオーセンティックな見た目は変えずに履きやすさを加えたスニーカーは、コンバースが最初に着手したんじゃないかと思います。当時はまだハイテクなシューズはルックスもハイテクだったので。
小澤:そういった作業をするにあたり、高瀬さんの中で、何か参考になったものはあるのでしょうか?
高瀬:若い頃、古いバイクをいじりながら乗ってたんです。見た目はめちゃくちゃ格好よくて中身を新しくして。なぜメーカーはこういうバイクを出してくれないんだろうって思ってて、どこかで同じ思いをスニーカーに対しても抱いていたんだと思います。
小澤:2001年にアメリカ製のコンバースがなくなりましたが、それはやはり少なからず高瀬さんに影響を与えたのではないでしょうか?
高瀬:そうですね。その頃まではやっぱりアメリカ製の方が格好いいと思うところがありました。でもそれが無くなってしまい、新しいものを作り直さなければと思った時、過去を振り返るだけじゃだめだって思ったんです。
フォルムを再設計したジャックパーセル

小澤:オールスター以外のモデルを作ろうと思ったのはいつ頃からですか?
高瀬:2012年のジャックパーセルからですね。
小澤:それはどこからインスピレーションを得たのでしょうか?
高瀬:ジャックパーセルは70年代のサンプルを持ってきて、それを見ながら作り込んでいきました。“完全復刻”という感じではなかったです。
小澤:それはつまり、オールスターよりも手を加えている感じですか?
高瀬:これに関してはそうですね。美しいフォルムになるようゼロから設計しました。トウキャップをかなり小さくデザインしているのも、その方がバランスが美しいからです。ちなみにサイドのフォクシングテープからあえてノリをはみ出させているのは、N.ハリウッドのデザイナーの尾花さんのアドバイスです。これは工場には嫌がられましたね。「今まではノリは絶対にはみ出すなって言っていたくせに」って(笑)。


小澤:ちなみにコンバースにはタイムラインというラインもありますが、それとアディクトの違いを教えていただけますか。
高瀬:タイムラインは簡単に言えば復刻。できるだけ忠実に再現しています。冒頭でもお伝えしたように、アディクトは進化するヴィンテージ。主に履き心地において、機能的な進化を加えています。
2020年、念願のコーチをリリース

小澤:昨年はコンバース アディクト コーチ キャンバス HIがリリースされて話題になりました。これはどういった経緯で実現したのでしょうか?
高瀬:僕は割と裏道を行きたがるタイプで、もともと知る人ぞ知るコーチというモデルが好きだったんです。ちなみに、実は2008年に一度復刻をしているんです。
小澤:そうなんですね。
高瀬:ただその時は商標の問題があって、サイドのラベルには「C」のイニシャルだけ。それからずっと温存し続けて、思い切ってコーチジャパンに連絡したところ、OKが出たのでリリースに踏み切りました。なのでよく見るとシュータンの裏にクレジットが入っているんですよ。

小澤:ソールはリサイクル素材ですか?
高瀬:ヴィブラム社のエコステップという30%リサイクル素材です。
小澤:ソールのテープの幅が狭いですね。
高瀬:ソールのテープの幅が狭いと必然的にトウキャップの面積が広くなるのですが、できるだけ野暮ったくならないように工夫するのに苦労しました。コンバース アディクトはファションとしての提案性が強いので、ここは結構こだわりましたね。

小澤:そもそもコーチの出自は諸説ありですが、高瀬さんは真相をご存知なのでしょうか?
高瀬:実は僕も確かなことはわからないんです。50年代のカタログに登場しているので、それ以前に誕生していることはわかっているのですが、それ以上のエビデンスがなくて。ちなみに今回リリースしたものは70年代のコーチがモチーフで、50年代のものとは形が結構違います。
小澤:バスケットボールのコーチ用にデザインされたものという説もあります。
高瀬:カタログを見る限りそういった記述はなく、for basketball、General athletic useと書いてあります。また、one of the best value in the chuck taylorとも。価格を抑えたニューモデルだという表現にとどまっていますね。



小澤:実際にスペックとしてオールスターより劣っているんでしょうか?
高瀬:やっぱりアッパーのキャンバスに関してはオールスターの方が肉厚でしっかりしています。
時代の空気を吸収しながらこれからも進化し続ける

小澤:コンバース アディクトは本当に毎シーズン注目度が高いですよね。
高瀬:おかげさまで。期待値も高いので、ヘタなものは作れません。
小澤:スペックをどうブラッシュアップするかもそうですが、どのモデルをピックアップするかという選択眼も問われるというか。
高瀬:そうだと思います。なので、今お客様が何を期待しているかをしっかりと感じながら計画するようにしています。
小澤:今回のコンバース アディクト コーチ キャンバス HIは、ある意味念願叶ってというところだと思いますが、他にもまだまだやりたいことはありますか?

高瀬:まだまだあります。何をどう進化させることができるか、今もいろいろ試しています。特に、ヴィンテージのルックスの追求とともに、さらにインソールなどの履き心地を追求していきたいと思っています。
21年春夏はジャックパーセル&ワンスター サンダル


小澤:直近だと(2021年)4月10日にはジャックパーセル キャンバスとワンスター サンダルがリリースされますね!
高瀬:ジャックパーセルは意外と今までやってこなかったベーシックなブラックとカーキの2色で展開。ワンスター サンダルは昨年リリースしたブラックに引き続き、ベージュのリリースとなります。
小澤:ワンスター サンダルのブラックは即完売でしたね。今年も人気が集中しそうな予感です。
高瀬:オリジナルは発売当初はそれほど売れなかったモデルだったのですが、近年になって再評価されていますね。ヴィンテージ市場ではだいぶ値段も高騰したと思います。
小澤:ワンスター サンダルの復刻デザインのポイントはどこにありますか?
高瀬:これは結構デフォルメしていて、ソールをすっきりさせてスタイリッシュにしているのが一番のポイントです。元々はもっと野暮ったい感じで、それがいいっていうファンも多いと思うんですけどね。そのままっていうのもちょっと面白味がないかなって思って、デフォルメしました。


《 2008HOLIDAY CHUCK TAYLOR® CANVAS HI 》
ナチュラル
《 2008HOLIDAY CHUCK TAYLOR® CANVAS HI 》
ナチュラル


《 2012 HOLIDAY JACK PURCELL® CANVAS 》
ホワイト
《 2012 HOLIDAY JACK PURCELL® CANVAS 》
ホワイト


これがあったからこそ、今に至ると言っても過言ではありません」
《 2010 HOLIDAY CHUCK TAYLOR® ENAMEL HI 》
ダークネイビー
《 2010 HOLIDAY CHUCK TAYLOR® ENAMEL HI 》
ダークネイビー


税込み3万円超えという価格設定は初の試みでした」
《 2011SpringⅡ CHUCK TAYLOR® G HI 》
ブラック
《 2011SpringⅡ CHUCK TAYLOR® G HI 》
ブラック


日本限定で展開した非常にエクスクルーシブな企画。」
《 2017SpringⅡ CHUCK TAYLOR® CANVAS GORE-TEX® HI 》
ブラック
《 2017SpringⅡ CHUCK TAYLOR® CANVAS GORE-TEX® HI 》
ブラック


生誕100周年を記念してようやく発売することができました。」


《 2020 SpringⅡ CHUCK TAYLOR® CANVAS OX 》
《 2020 SpringⅡ CHUCK TAYLOR® CANVAS OX 》


厚みのあるソールや高いクッション性は、新しい感覚でした」
《 2015 SpringⅡ CHUCK TAYLOR® MATERIAL OX 》
《 2015 SpringⅡ CHUCK TAYLOR® MATERIAL OX 》


ハイカットが2009年だったから、待ち焦がれたリリースでした」
《 2016HOLIDAY JACK PURCELL® LEATHER 》
《 2016HOLIDAY JACK PURCELL® LEATHER 》


高級感がありました。革靴の気分で履いています」
《 2016 HOLIDAY JACK PURCELL® CANVAS SLIP-ON 》
《 2016 HOLIDAY JACK PURCELL® CANVAS SLIP-ON 》


日本らしいマニアックな感性が息づいています」
《 2017SPRING CHUCK TAYLOR® CANVAS HI 》
《 2017SPRING CHUCK TAYLOR® CANVAS HI 》


僕らの世代にとって特別な思い入れのあるカラーです」
小澤:今回はありがとうございました。改めてコンバース アディクトを体系的に理解するいい機会になりました。今後も期待しています!

小澤匡行編集者・ライター ライター・編集者。1978年生まれ。大学在学中のストリート全盛期に、雑誌Boonでキャリアをスタート。90年代のスニーカーブームの洗礼を受け、知識と経験を深める。現在もファッション的見地からスニーカーの動向を見つめ続ける第一人者のひとり。著書に『東京スニーカー史』(立東舎)。
高瀬英次郎CONVERSE
コンバースジャパン 企画部 部長
2008年のローンチから現在に至るまで、すべてのモデルの監修を手がける。ヴィンテージから現行品まで、その歴史と成り立ちを知り尽くす人物。 https://converse.co.jp/addict/