定番スニーカーの現在地
/前編

各メーカーの歴史が詰まった定番モデル。男女問わず、どんな服にも合わせやすい普遍性が魅力です。とはいえ時代やトレンドの波に合わせて、今のおしゃれを楽しみたいもの。ストリートからモードのコレクションまでチェックを欠かさない人気スタイリスト、井田信之さん、井田正明さんに、代表的な4モデルについて、今の気分を対談してもらいました。Photograph_kanta
Matsubayashi Interview & Text_MANUSKRIPT

井田正明

井田正明/スタイリスト1986年生まれ、埼玉県出身。川村都スタイリストスクールを卒業後、五十嵐孝智氏に師事。2011年に独立し『MEN’S NON-NO』などファッション雑誌・広告・ブランドのカタログなどで活躍中。井田信之さんとは双子の弟にあたる。

井田信之

井田信之/スタイリスト1986年生まれ、埼玉生出身。2006年に舛舘和憲氏に師事。2009年に独立した後、イギリス留学し、モードの研鑽を積む。帰国後は『GQ』や『eyescream』など、ジャンルに制限することなくファッション雑誌やカタログを中心に活躍している。

現在のスニーカーシーンについて

井田信之(以下N):昨年くらいから、革靴にトレンドが動くって言われてましたよね。コレクションの傾向もそうでした。でも街を見ていると結局スニーカーを履いている人の方が多いよね。
井田正明(以下M):ファッションのトレンドでは測れない、別の大きなパワーを感じます。ダッドの流れを引き継いだボリュームがあるものからクラシックなランニングやバッシュまで、幅が広がっている気がするな。
N:革靴はスニーカーに比べて履き心地に進化がみられないから、日常で履く提案がメディアでもできないんだよ。あとスニーカーの種類の豊富さに比べて革靴はバリエーションが少ない。金額も高いしね。
M:よく「今革靴買うなら何がいい?」って聞かれるけど、昔から変わらないよね。パラブーツとか、JMウエストンとか。
N:〈パラブーツ〉がここ5年くらいで浸透したのは、登山靴の背景をもった歩きやすさがあったと思う。それでいてかっちり見える。僕も伊勢丹の靴売り場で働いていた経験があるけど、みんな口々に「歩きやすさ」、「楽なもの」を求めている。〈コールハーン〉とかやっぱ大人受けいいんですよね。
M:〈ナイキ〉のソール使ってたしね。お前めっちゃ売ってたもんな。あと、コロナの影響でスーツやジャケット着て出勤する人も減ったし。より世の中が自分の時間を快適に過ごせるファッションを求めるようになった。そうなると足元はスニーカーだよね。あと、時代性が出しやすい。常にニューが出るから、話題にもなりやすい。
N:世界中のデザイナーが40代前後がメインになり、彼らが10代の頃に見ていたものがアップデートされている。〈エンダースキーマ〉とかがスニーカーの名作を革で作るのもそう。新しい価値観が出ているよね。
N:革靴みたいにこだわっているブランドもあれば、ビーガンにしたり、アートとして扱ったり。スニーカーが細分化しすぎて、良い意味で一つに括れなくなって、誰にでもリーチできるようになったよね。
M:スタイリングの取り入れ方は変わった?
N:僕はスニーカーをスパイスに使うタイプ。服を合わせて、最後どんな人物像にするかを足元で微調整してる。カルチャーを出すのか、ミニマルに持っていくか。人間性を表現しやすいよね。スニーカーって。
M:僕は時代感を出すためのアイテムかな。あと街の人のおしゃれな合わせを参考にしてるよ。あ、あの人すごくモードなのに足元はAIR FORCE 1だ、とか。

NIKE / AIR FORCE 1

ーFIGUREでも最も売れているスニーカー。今季はミッドやハイもラインナップしています。

M:僕のフィールドでは一番王道のモデル。カジュアルでもきれいめでもどっちでもいける。しかも大学生の定番でもあるし。誰のものでもないシューズって感じだね。
N:正明はストリートとモードの両方だったけど、僕のスニーカーの入り口は〈コンバース〉や〈ヴァンズ〉だったじゃない? ラモーンズ聴いたり、ドッグタウンの映画に憧れてスケートボード始めたりとか。ロックやパンクのカルチャーでスニーカーを見てたんだよね。だから〈ナイキ〉は、ずっと自分の外にあるモデルなんだよな。でもスニーカーの王様って感じ。
M:地元の先輩とかがナイキを履いているのを見て育ったしね。ヒップホップの流れでストリートに来たじゃない? しかも裏原の人たちの中でも割と上品な人が履いているイメージだった。そういう過去があったから、いまモードにも通用するんじゃないかな。
N:とくにローカットがね。シンプルなニットに合わせたくなる。でも、これもヴァージル然り、今のヒップホップカルチャーがモード支配しているってことじゃない? 
M:あと、昨年〈コム・デ・ギャルソン オム プリュス〉が別注したことで印象変えたよね。あれはミッドカットだったけど。
N:ミッドはよりヒップホップのアイコンなんだよな。90年代とか2000年代はガムソールとかスウェードとか、ブーツとの互換アイテムだった。スタイリングは難しいよね。ショーツとかじゃないと。
M:ボリュームが出るからね。日本人の体型には難しいけれど、外国人は好きだよね。ハイもそう。昔『MEN’S NON-NO』の海外スナップ特集で、〈アディダス〉のFORUM HIだったかな?ストラップをわざと外してかっこよく履いている人を覚えている。
N:これ、比べるとミッドとハイってストラップの高さは同じなんだ。履きこなせばおしゃれなアイテムだよね。存在感もある。DUNKはハイとローは同じ枠内の好き嫌いで選ぶけれど、AIR FORCE 1の場合、ローとミッド/ハイはまったくの別物だね。
M:ローはとにかくオールマイティ。普遍的過ぎて、ストリートを感じなくなっている。スタイリングで使うなら、今はミッドを選ぶかな。高さがあるとクセを付けやすいよね。

adidas Originals / STAN SMITH

―2021年バージョンはリサイクル素材を使用し、一部動物由来の素材を使用しないヴィーガン設計のサステナブル仕様に変更されました。

N: かなり変わりましたね。見た目にはわかりませんが、コーティングされた革の質感が違う。光沢があるし、触った感じ、ぬるっとしています。
M:本当だ。ちょっと高級感出たかもね。アディダスは2024年までに使用するポリエステルをすべて再生材料で賄うらしいね。これはアッパーの50%がリサイクル素材だって。STAN SMITHみたいなデザインって、どこにでもあるじゃない?プレミアムスニーカーって呼ばれるような。すべての規範になっているところがすごいよね。
N:だからか、今はスタイリングに個性が求められるから、同じ定番モデルでも、ちょっと真新しさがないよね。アップカミングな存在ではない。
M:そこが逆にいいんじゃない。かつてのウィメンズの〈セリーヌ〉人気に引っ張られた頃が異常で、本来の立ち位置に戻ってきた気がする。僕は逆に今のほうが落ち着いて履けるようになったかも。しかも今選ぶと「あえて」的な意思を感じるかもね。
N:ドレスとか、フレンチ好きな人の支持は相変わらずだよね。トラッドなイメージが強い。これって普通に履いているとおしゃれに見えにくいけど、業界の大御所とかがシンプルに履きこなすと、すごい偏差値の高い靴に見えるから不思議だよね。
M:スタイルを確立した偉大なデザイナーの足元ってイメージだよね。ちなみに信之はファッションのサステナブルって、どう見てるの?
N:その言葉を多用されると、ちょっと斜めに見てしまうかな。でも、〈スタンスミス〉みたいに売れ筋の看板モデルがサステナブルに取り組むことて、多くの人が目に行くきっかけになるよね。常識を変えるために努力しているところはポジティブに見ている。
M:〈アディダス〉はもともと〈ステラ・マッカートニー〉とコラボしていたし、スポーツメーカーの中では一番環境への意識が高いブランドって気がする。でも、〈ナイキ〉みたいに見た目で表現するより、内側を変えるって感じかな。成分とかすごく気を遣ってる。ファッションに社会性を含ませることを一過性のトレンドにしないためには、こういったシューズが必要だよね。

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