The Clothes you
really need.
A.PRESSE

“必要な服”の本質
Vol.1

『素材と仕立てに徹底的にこだわった、ベーシックで上質な服』ほど差別化を図ることが難しいはずなのに、A.PRESSEの服から特別な魅力を感じるのはなぜだろう? その秘密を解き明かすべく、ディレクターの重松さんに話を聞いた。Photo : Shunsuke Shiga
Edit & Text : Jun Namekata
Production:MANUSKRIPT

―ものづくりというものには、それを手掛ける人の根本的なものが少なからず投影されると思っています。まずは重松さんにとってのファッションの原体験とはとういうものだったのか教えていただけますか?

重松一真さん(以下重松):何か特定のカルチャーに強い影響を受けたとか、人物に憧れたっていうことはほとんどないと思います。もちろん時代時代にトレンドはあって僕もその中で感性を育んできたのでゼロではないですが、僕はどちらかというともっとパーソナルなところに興味を持っていました。『なぜこの人はこういう格好を好むのだろう』とか、『今日はなぜこの人はそういう服装できたんだろう』といった感じで。

―ある種、プロファイリングのような。

重松:ちょっと変ですよね。でも昔からそこにすごく興味があったんです。行動心理というんでしょうか。そうやって人を観察し続けている中で、自分が求める理想の人物像の価値観を育んできたというか。もちろん当時はそれを意識的にやっていたわけではありませんが、過去の自分を振り返ってみると、そうだったのかもしれないなと思います。

―洋服と接するときも同じような感覚で?

重松:プロダクトそのもののクオリティだけじゃなく、その背景も気にするタイプではありました。どんなデザイナーがどういったプロセスでこれを作ったんだろう、とかそういった具合に。

―重松さんといえば古着のイメージもあります。

重松:それはやっぱり歴史というストーリーにとても興味があったからですね。ほとんどのヴィンテージウエアにはそれが誕生した明確な理由があり、時代を超えて残り続けてきた理由があります。それらには普遍的で不変の価値がある。それはとても魅力的なことだと思うんです。

僕たちが服づくりの参考にしているミリタリーウエアなんかはその最たるものの一つ。漁師のためのフィッシャーマンニットや、寒さを乗り切るための衣服もそう。それぞれの環境においてそれが必要だったから生まれたんです

でもそれってただの昔話ではないんですよね。今の時代にも我々の周りには同じような環境はあって、同じように必要とされている衣服がある。文明は進化しても人間のメンタリティーや脳の仕組みは多分ほとんど変わらないんです。じゃあ今はどんなものが必要なのか。時代を超えて残ってきたものから何を学んでものづくりができるか。そういうところに僕はすごく面白さを感じるんです。

―それがA.PRESSEというブランドの根幹であると。

重松:衣服として必要なものはすでに過去に生まれています。服はデザインする必要はないと思っているのもそのためです。必要なのは、時代を超えて受け継がれてきた本質的な衣服を、現代においてどう解釈するかということだけ。我々が自分達の服作りをデザインではなく編集と呼んでいるのもそのためです。

―一つの服を作るのに非常に長い時間をかけていると伺っています。

重松:なぜその素材が使われているのか、なぜそのような仕立てになっているのかなどをまず理解しなければいけません。そしてそこから必要な要素を取り出して、今の時代に必要な服へを置き換えていく。僕らは古着をモチーフにしたファッションを提案しているのではなく、“今必要な服”を導き出している。それらの作業は慎重に行われなければいけませんから。

―シンプルなアイテムほど、素材や製法が大事だと思います。その辺りへのこだわりはいかがでしょうか?

重松:もちろんあります。ただ、素材が上質であればいいというわけではありませんし、仕立てが複雑であればいいということではありません。そうあるべき部分に、最も正しい素材や製法を採用することが大事だと思っています。

もちろん、身につける上での高揚感というのもないがしろにしてはいけないですから、そう言った視点で希少な素材や最高級と呼ばれる素材を用いることはあります。どちらかというと引き算的に構築されるアイテムが多いからこそ、そこには人並み以上のこだわりを持っているつもりです。それは、自分が行っている唯一のデザインと言えるかもしれません。

ただ個人的に素材自慢はあまり意味のないことだと思っているので、それをセールスポイントとして声高に語るつもりはないんです。そういうことを謳っているブランドは世の中にたくさんあって、それこそキリがない。A.PRESSEにとってそれはあくまで味付けであって、本質的なポイントではないので。

―見て触れて感じ取りながら、服の魅力を読み解く。A.PRESSEこそ、それが必要な服なのかと思います。そう言った意味では、ECで販売されることに抵抗があるのではないでしょうか?

重松:抵抗はあります。自分自身ECで買い物をしないので。ただ、嫌だということでもないんです。例えば店頭で購入する場合においても、接客を通じてお客様はいろんな情報を得ると思いますが、それが僕らの意図と全て合致するとも限りません。そういった視点では、シンプルな情報だけが掲載されているECで購入して、手元に届いた時に何かしらの感動を覚えてもらう方が純粋かもしれないとも思ったりします。

―以前、重松さんがおっしゃっていた「振り向かれない美学」について詳しく教えていただけますか

重松:僕が尊敬する人たちの多くは裏方の仕事をしている人たちです。彼らは自分が評価されることよりも、自分が手がけた仕事を評価されることを望んでいる。表層ではなく、より本質的な部分で勝負をしたいと思っている人たちです。そしてそういった人たちに限って服装もシンプルです。その気になれば派手に取り繕うこともできるはずですが、それを良しとしない。内面性が服に表れているんですね。かといって別に無頓着というわけではなく、その人なりの確かなこだわりがある。僕はそういう人にこそ本質的な強さや美しさがあると思っているんです。派手さではなく内面を磨くこと。それが振り向かれない美学かなと。

―確かに、いつも同じような格好をしているのにとても洗練されて見える人がいますよね。その秘密はどこにあるのかと思っていました。

重松:望むと望まざるとにかかわらず、洋服にはその人の内面が現れるものです。表層的なファッションではなく、細部にこだわった服装だからこそ自信が持てる。それが表れているのかもしれません。

―より本質的な部分に目を向けているというか。

重松:僕が伝えたい面白さというのは、そこかもしれません。わかりやすいファッションをしている人ほど実は没個性的だったりするし、いつも同じような格好をしている人ほど強烈なこだわりがあったりする。もちろん全てではありませんし、どっちが良いとか悪いとかを説いているわけじゃありません。重要なのは、わかりやすさに流されることなく、ちゃんと自分の尺度で判断しているかということだと思います。

―最後に、A.PRESSEを通じて、重松さんが伝えたいこととは?

重松:自分にとって本当に必要なものを、自分で考えて判断する。そのことの大切さでしょうか。そしてそうあるための一番ニュートラルな状態を作ることができるのが、A.PRESSEがもつ服の特徴なのかなと思っています。


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